
― ケンとコリンズが語る、原体験から生まれた活動事業の原点 ―
2月26日(木)にSport for Tomorrowアフリカ分科会主催で開催された「アフリカ共創セッション」では、ケニア・キベラスラムを拠点に活動するA-GOALのケンとコリンズが登壇しました。
2人の来日中の様子やスポーツ庁長官感謝状授与式の様子は下記の記事でお伝えしましたが、本記事ではさらに内容を深掘りし、ケンとコリンズが語った生い立ちや活動の原点、そしてスポーツを通じた社会変革への想いについて詳しくご紹介します。
ケン・コリンズ初来日 スポーツ庁長官感謝状受賞 | A-GOAL
ケン:サッカーが唯一の希望だった少年時代

キベラA-GOALリーグのチェアマンであるケンは、ケニアのナクルという街で育ちました。
当時のコミュニティは犯罪が多く、ケンの家庭も決して裕福とは言えない厳しい環境の中での生活を余儀なくされていました。
そのような状況の中で、彼にとって唯一の希望となったのがサッカーでした。
彼は「オリンピック・ユース・アカデミー」でサッカーを始め、その後、地元クラブを経てケニアのトップリーグに所属するクラブへと進みます。プロ選手としての道を歩む中で、彼の人生は大きく変化していきました。
転機となったのは、選手としてプレーするだけでなく、コーチとしても活動を始めたことです。現場で子どもたちと向き合う中で、「スポーツが人の人生を変える力」を強く実感するようになりました。
この経験が、後に社会課題に向き合う活動へとつながっていきます。

コリンズ:過酷な環境からの再出発と「教育」への決意

一方、キベラA-GOALリーグの副チェアマンであるコリンズは、ナイロビのキベラスラムで生まれ育ちました。人口100万人とも言われるこの地域で、彼は12人兄弟という大家族の中で育ちました。
家庭には教育を受ける余裕がなく、「家にはお金がないからどうしようもない」と母に告げられ、彼は「孤児のふり」をして孤児院に入るという選択を余儀なくされます。しかし、過酷な環境に耐えきれず、1年後に脱出し、その後は生活のために犯罪に関わるようになってしまいました。
転機となったのは、仲間が命を落とす事件です。「ある時、友人が全員殺される事件がありました。運良く逃げ延びた私は、自分の人生を改めなければならないと決心したのです」 とコリンズは言います。
その後、彼を支えた大人との出会いをきっかけに、「次は自分が誰かを支える側になりたい」と考えるようになります。
そして立ち上げたのが、コミュニティ支援プロジェクト「Agape for Kibera」です。
・学校の運営(約150人の子ども)
・女の子向け教育プログラム
・サッカーチームの育成
・コミュニティ図書館の設立
・チェスクラブやダンスチームの運営
教育と居場所を提供することで、子どもたちが犯罪に巻き込まれない環境づくりを進めてきました。
二人の出会いと事業の発展
ケンとコリンズは、サッカーの大会で出会い、意気投合しました。すでにコリンズが運営していたコミュニティ活動に、ケンが加わる形で協働が始まります。
その後、2020年に日本からサッカー留学していた大学生「ヤス」とのつながりをきっかけにA-GOALと連携し、コロナ禍では食料支援を実施するなど、活動はさらに拡大していきました。
次のステップとして始まったのが、「キベラA-GOALリーグ」です。

サッカーがもたらした変化
ケンは、リーグ立ち上げの理由について次のように語っています。
「サッカーはとても強力なツールです。正しく使えば、世界を変えることができます」
実際に、リーグ開始後、コミュニティにはさまざまな変化が見られるようになりました。
・子どもたちが犯罪に関わる機会の減少
・子どもたちがドラッグの運び屋として利用されるケースの減少
・子どもたちやコミュニティの意識(マインドセット)の変化
年間を通して、単にサッカーの機会を提供するだけでなく、試合日には食事の提供を行い、ワークショップや遠征なども通じて「生き方」や「選択」について学ぶ機会を設けている点が特徴です。
事業の本質:人を育て、社会を変える
二人が強調していたのは、「良い選手を育てること」が目的ではないという点です。
「私たちはただ優秀なプレーヤーを作るためだけにやっているのではありません。将来、良き妻、良き夫になれるような人間を育てるためにやっています。そして、明るい未来に向けた道筋を作るためにやっているのです」
彼らが目指しているのは、より本質的な価値の創出です。
・良い大人になること
・家族やコミュニティを支えられる人材になること
・次の世代へ価値を還元する循環を生み出すこと
コリンズは、「スラムでは、子どもたちがドラッグの運び屋として利用される事件が日常茶飯事でした 。しかし、リーグを始めたことで、その数は激減したのです 」とも語りました。
今後のビジョン:持続可能なコミュニティへ

今後の展望として、二人は以下のビジョンを掲げています。
【ケン】
・スポーツを通じた意識変革の継続
・プロ選手の輩出
・成長した人材がコミュニティに還元する循環の構築
【コリンズ】
・自前のグラウンドの確保
・子どもたちが安心して集まれる環境の整備
現在は限られたスペースの中で活動していますが、「いつでも子どもたちが来られる場所」を作ることが大きな目標となっています。
共創の意義:日本とのつながりから生まれる価値
セッションの中で二人は、日本との関係についても言及しました。
ケンは「私たちが課題を抱えている時、日本側は常にポジティブな形でアフリカ側と繋がってくれました。それは私たちが決して当たり前だと思っていないことです。これは、私たちが皆さんから多くを学び、皆さんも私たちから多くを学ぶという双方向の道になると信じています」 と語りました。
今回、初めて日本を訪れた二人は、日本の優れた「組織力」や、道路での「規律」に大いに驚いていました 。「ケニアには交通ルールなんてないようなものです。日本では道端に座っている人がいないのにも驚きました」とコリンズは笑います 。また、日本の公立小学校を訪問した際、子どもたち一人ひとりに自由なスペースが確保されていることに感銘を受けていました 。一方で、日本がアフリカから学べることとして「文化の多様性」があると語りました。
今回のセッションでは、日本のスポーツ界のプロフェッショナルたちとのクロストークも行いました。
渋谷区スポーツ協会の久保田氏は、グラウンドや体育館が極端に少ない都市部において、道路や様々な場所を工夫してスポーツの場に変えている取り組みを紹介しました 。また、クリアソン新宿の長谷川氏は、多国籍な人々や高齢者が住む新宿という街で、サッカーを通じて社会の分断を埋め、「共創」の循環を生み出している事例を共有しました 。
「スペースがないにもかかわらず、何かをしようとし、コミュニティを活性化させようとしている点が一番気に入りました」とケンは目を輝かせ、コリンズも「サッカー以外の様々な競技に焦点を当て、別の才能を発揮する場を作っている点」に大きな学びを得ていました 。
さらに、スポーツビジネスの専門家である遠藤氏からは、日本企業がアフリカへ進出する際、A-GOALのような団体が現地コミュニティとの接点(アクティベーション)となり、それがリーグの運営費として循環する持続可能なスキームの重要性が語られました 。単なる寄付ではなく、お互いの強みを活かす「パートナーシップ」の形がここにあります 。


まとめ
本セッションを通じて、改めて彼ら自身もサッカーに出会い、人と繋がり多くの学びを得てきたと感じました。
彼らと共に進めてきたA-GOALの取り組みは、子どもたちにサッカーをする環境を提供するだけではなく、スポーツを通じて人を育て、やがてキベラという地域コミュニティ、社会そのものを変えていく可能性があると感じています。
今後もキベラA-GOALリーグを継続することに尽力しながら、ビジョンである「心の豊かさと未来への選択肢をつくる」ことに尽力してまいりたいと思います。
ここまで記事を読んでくださった方、誠にありがとうございます。今後とも宜しくお願いいたします。
